マハーバーラタと創世記の変容 [聖書研究]

古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」の研究者である前川輝光 亜細亜大学教授は、次のように述べている。(マハーバーラタの世界、5章より引用。一部変更)
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カースト制度の序列が固定化し、バラモンが最上位に君臨するようになる前の時代には、宗教的特権階級たるバラモンと、世俗的特権階級たるクシャトリヤとは熾烈な対抗関係にあった。仏教文献やジャイナ教文献には、それを反映してバラモンよりもクシャトリヤを上位に位置づけた記述が散見される。
「マハーバーラタ」の挿話の中にも、両者の対抗関係を如実に示すものが少なからず見られる。(ヴィシュバーミトラ物語やパラシュラーマ物語など)
「マハーバーラタ」は最初、クシャトリヤ(戦士貴族階級)の文化や理想像を伝えるべく語り始められたが、後にバラモンの手で大幅な修正追加が行われた。紀元前400年~紀元後400年の成立過程の間に、「マハーバーラタ」の性格は大きく変容してしまったのである。(しかし、それにも拘わらず、かつてのバラモン対クシャトリヤの対抗関係やクシャトリヤ優位を反映した名残りは随所に窺われる)
「マハーバーラタ」の登場人物の中で、このようなバラモン化の使命を体現しているのがクリシュナである。多くの研究者が指摘しているように、クリシュナの目的は、全クシャトリヤを滅亡させることであった。
クリシュナは、バラモンの至上権を認めない暴虐な現クシャトリヤ世代を一掃し、クシャトリヤを根絶やしにするために、ヴィシュヌ神の8番目の化身として登場したのである。(バラモンを敬う有徳なパーンダヴァ5王子だけは助けられた) つまり、クリシュナは、バラモンの権威を拡大するために行動したのである。クリシュナはバラモンの世界観に沿った役割を与えられたのである。
引用終わり
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さて、元々、クシャトリヤ(戦士貴族階級)の文化や理想像を伝えるための物語が、バラモン(祭司・神官階級)によって修正加筆され、クシャトリヤ(戦士貴族階級)は、パーンダヴァ5王子を除いて、クリシュナの無慈悲な奸計によって絶滅されて行く。
このような、クシャトリヤ(戦士貴族階級=世俗勢力)中心史観から、バラモン(祭司・神官階級=宗教勢力)中心史観への歴史的変容は、旧約聖書の創世記についても当て嵌まる。
3:22
主なる神は言われた、「見よ、人はわれわれのひとりのようになり、善悪を知るものとなった。彼は手を伸べ、命の木からも取って食べ、永久に生きるかも知れない」。そこで主なる神は彼をエデンの園から追い出して、人が造られたその土を耕させられた。神は人を追い出し、エデンの園の東に、ケルビムと、回る炎のつるぎとを置いて、命の木の道を守らせられた。
この記述には、明らかに、神と人との対立関係(神の人間に対する冷酷さ)が表現されている。創世記の最初の部分は、このような、神と人との対立関係(神の人間に対する冷酷さ)が主題となって成立している。(=世俗的な考え方
しかし、後代になって祭司神官勢力(サドカイ派・宗教信仰勢力)が拡大すると、それを反映して創世記の「神と人との対立関係」という主題は巧妙に隠されてしまい(あやふやにされてしまい)、宗教信仰勢力にとって都合の良い箇所だけが強調されるようになったのであろう。(旧約全体が宗教勢力に乗っ取られた
しかし、それでも、「ヤコブの神との闘い」のエピソードは、削除されずに残っている。それは、ちょうど、「マハーバーラタ」で、バラモン階級編纂者が、クシャトリヤの美しい?文化や価値観を完全に払拭できなかったことと同じである。やはり、オリジナルな主題は、いくら隠そうとしても、完全に隠し通せるものではないのだろう。
なお、世俗的勢力と宗教的勢力の対立関係は、インドラとトヴァシュトリ、 エンリルとエンキ、の神話にも反映されている。

タグ:聖書
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